カスケード号
ポートランドからシアトルへ
実は、我々が初めて乗ったアムトラックの列車は、サンフランシスコ行きの寝台車ではなく、ポートランドからシアトルへの往復に利用した「Cascades(カスケード)号」だった。
カスケード号は、カナダのバンクーバーとオレゴン州南部のユージーンの約750キロを結ぶ国際列車。
「列車で国境を越えるなんて風情があっていいなぁ・・・」と思いつつも、我々はその半分ほどの区間、約300キロに乗車した。
座席の種類
コースト・スターライト号でご紹介したのと同様に、料金は座席種類や購入時期によって変動する。
普通席の「Couch(コーチ)」、ビジネスクラスの「Business」、そしてファーストクラスの「Premium」がある。
カスケード号のホームページはこちら。
時刻表によると、ポートランドからシアトルは約3時間半ほど。
予約時期にもよるだろうが、1人往復70ドルほど。バスと比べてもなかなかお得な料金だった。
いざ出発!
我々が旅したのは5月上旬。オレゴン、ワシントン州などアメリカ北西部も春めいてきた気持ちのよい季節だ。
コーチ席は基本的に自由席。ただし、駅でチェックインすると、何号車の車両に乗るのかの指示がある。なので、まずは自分の車両をめざして駅構内を歩く。
車内の大半は2人掛け。4人で向い合う座席もあるので、グループでの旅にも便利そう。
さてさて、いつものことながら、進行方向に向かってどちらの車窓がキレイなのか・・・座席選びで悩んでしまった。
そして、我々は進行方向に向かって左側(西側)の座席にした。
地図を見るかぎり、西側の座席の方が川や海の景色を楽しめるでのはないかと考えたからだった。
そして、この考えは正解だったと思う。ただし、東側の座席もなかなか魅力的かもしれないとも感じた。このことについては後述したい。
さぁ、いよいよ出発!
と、その前に!
大切なことを忘れてはいけない。アメリカの鉄道の楽しみ、そう、それは窓からの雄大な景色だ。そのために必要なのが窓をキレイにすることなのだ。
私の経験では、アムトラックの窓はいつも土ぼこりなどで汚れている。出発後に気づいても、あとの祭り。
なので、停車している間にキレイにしよう!
ティッシュペーパーを持っているひとはそれでもOK。私は列車のトイレに備え付けのペーパータオルを水で濡らし、ハンドソープも少しつけて窓をせっせと拭いた。
さらに、乾いたペーパータオルで仕上げる。窓が見違えるように透明になった!
周りを見渡すと、窓を拭いているのは私ぐらい・・・それでも駅員さんには何も言われなかった。ちなみに、窓の掃除を終えて車内に戻ると、我々の座席近くのお客さんからは、「こちらの窓もキレイにしてほしい!」と笑顔で称賛(?)されたことも付け加えておく。
こう考えると、窓をふけるのはプラットホーム側だけなので、どちら側の席に座るのかも考え出すときりがないかもしれない・・・。
というわけで、本当に出発!
とにかくのんびりと
ポートランド駅を出発すると、しばらくはウィラメット川沿いに速度を落として走り、やがて川を渡る。
車窓からはポートランドで私が一番大好きな橋、セントジョンズ橋が見送ってくれた。
アムトラックはとにかくのんびり走る。しかも、遅延も多い。決して急ぐ旅には向いていない。それでも、プロセスを楽しむのも旅の楽しみのひとつ。
なんとなく車内の年齢層も少し高めのような気がした。みんな旅の醍醐味を知っているんだろうなと思った。
列車は本流のコロンビア川も渡り、オレゴン州からワシントン州の街、バンクーバーにさしかかる。
いくつかの小さな駅も通過。雄大な自然の景色も大好きだが、こうした小さな街を車窓から眺めるのも好きだ。
日本とはまったく違うはずなのに、郷愁を覚えてしまうのはなぜだろう。
再び景色について
少しずつ遅れを重ねながらも、なおもゆっくり走るアムトラック。
読書をしようと本を持ってきたのに、景色を見ていると眠気が・・・。そういえば、宮脇俊三も窓の外を見ながらウトウトするのが好きだと書いていたような。なので、安心して居眠りをする。
ふと目が覚めると、窓の外は潮が引いたのか、湾内いっぱいに干潟が広がっていた。そろそろタコマが近い。
タコマはいまでこそシアトルやポートランドに比べれば小さい街だが、かつては多くの日本人移民でにぎわった街だ。
我々と反対側の座席の窓に目をやると、雲の切れ間から大きな山が見えた。北米大陸、西海岸に走るカスケード山脈の最高峰、レーニア山だ。
厚い雲で山頂は隠れていたが、山すそを遠くひいている。
古くは「タコマ富士」として親しまれたレーニア山。永井荷風も「白雪を戴く・・・」とこの山について書いている。
私はちらりとしか見ることが出来なかったが、天気がよければキレイに見える可能性もありそう。そうなると、進行方向右側(東側)の車窓もなかなか捨てがたいのかもしれない。
さらに列車は、橋梁工学の関係者には有名であろう「タコマナローズ橋」をかすめて北上を続ける。
シアトルへ
予定の3時間半を過ぎても、相変わらずゆっくりと走るアムトラック。
だが、ついにシアトルに入ったようだ。窓からは空港が見える。
ここは、ボーイング発祥の地でもある「ボーイングフィールド」。航空博物館も併設されている。鉄道ブログを書いていながら、実は飛行機好きの私としては訪れてみたくてたまらない。だが、おとなしく通過。
というわけでシアトルの「キング・ストリート駅」に到着!
ここまで約4時間。予想していた通りに時間はおしたけれど、実に快適な旅だった。
そして、シアトルに来た目的はもちろん・・・・・・そう、野球観戦!
残念ながら、私たちが行く前日にマリナーズがイチローの「一時引退」を発表。イチローの姿を見ることはできなかった。
しかし、エンゼルスの大谷が先発して見事に勝利!
そんなこんなで、楽しいシアトルへの旅。帰りももちろんアムトラック!
ちなみに、シアトルの駅からは徒歩5分ほどで日系スーパー「宇和島屋」がある。
「ここでたこ焼きを買ってから、列車に乗るのがオキニイリデス」という知り合いのアメリカ人のアドバイスにしたがい、久しぶりに熱々のたこ焼きを購入。おいしい!
帰りの車内は、なぜか冷房が強く、車内は凍えるような寒さ。
アメリカでは室内の冷房が効きすぎる場面に何度も遭遇してきたため、じっと耐えていたものの、さすがのアメリカ人も寒いと感じているようだ。
通りかかった車掌さんに「寒すぎるから温度あげて!」とのリクエスト。しばらくすると、車内の温度も上がり、いつの間にかウトウトと・・・。
帰りは遅れることもなく、約3時間半でポートランド着。
個人的な感想ではあるが、なぜだろう、鉄道で旅をしたあとのこの心地よさ。車も船も飛行機も、どんな旅も大好きだけれど、なんとなく上質の時間を過ごしたような気持ちになる。
「アメリカの長距離鉄道の旅はちょっと無理かも・・・」というひとも、3~4時間程度の旅で十分にその楽しめるのではないだろうか。
(なお)
☆私から一言☆
宇和島屋のたこ焼き屋のお兄さんは、たこ焼きのつくり方をYouTubeで2週間ほど練習して屋台を出したそうです。ほんのりエスニック風味でした。
ちなみに帰りの車内でたこ焼きをはふはふ食べていても、乗客の皆さんから文句は出ず。最近、新大阪駅ではたこ焼き屋に「車内で食べないで」という貼り紙が出てるとか? 新幹線が嫌いになりそうです・・・。
(のん)